ブックタイトル森林のたより 837号 2023年6月
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森林のたより 837号 2023年6月
-金魚が消えた、ボケの始まり?-【第383回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira令和5年4月9日。この日は狐につままれたようなことが起き、私にとっては忘れられない日となった。その経緯。私の日課の一つが金魚の餌やり。何年も続いている。水槽に近づくだけで金魚が集まる。「早く餌をくれ」と口をパクパク。この姿が愛らしい。我が子のような感じだ。ところがこの日の午前11時。金魚がいない。パクパク口を開けて集まってこないのである。一瞬「また、アライグマにやられた」と思った。今までに何回も悲惨な目にあっているからである。しかし、その形跡は全く見られない。水槽の上に置いている金網の蓋がそのままなのである。「どこへ行ったのか」。私は気が動転するというか頭の中が真っ白になってしまった。何回も水槽を覗いたがいなかった。気落ちするまま散歩に出かけた。しかし、歩くだけ。いつものように虫を観察する気にはなれなかった。帰宅後、すぐに水槽をみた。やはり金魚はいない。「なぜだ」と首をかしげた時、「これは盗まれたのだ。そうに違いない」と思った。盗んで、そのあと蓋を戻せるのは人間しかいないからである。××××このことを女房に話した。「またアライグマ」と語気を強めた。今までに何回もひどい目にあっているからである。しかし、今回は盗まれたかも知れないのだと、その状況を話した。「金魚泥棒!」と驚いた後「泥棒がいるなんて怖い町だね」と女房。金魚から泥棒の話へ。そして家の戸締りは今以上に厳重にすることになった。さらに女房は念を押すためか「寝るときは窓のシャッターを下ろし、留守にするときは玄関の鍵は忘れないこと」と私に何回も言った。この時、隣に住んでいる娘が遊びに来たので、このことを話した。すると娘は大笑いして、「蓋はしてあるのに、金魚がいない。そんな馬鹿なことがあるはずがない」と言って、金魚を見に行った。すぐに戻ってきて「金魚は元気だよ」。「え!金魚が生きている。それ本当か」と何回も聞き直した。金魚は確かにいた。20cm以上の大きな金魚が口をパクパクあけていたのだ。ほっとした。体が楽になった。「3時間前はいなかったのに、今は元気に泳いでいるおかしな話だ」と娘に言うと「それはお父さんが夢を見ていたのよ。そうでなければボケが始まったのではないの。気をつけてよ」。さらに女房は「ボケ始めたのなら心配だね。酒の飲みすぎではないの。晩酌を止めたら」と。この言葉で大事件?は終了。笑い話で終わってしまった。しかし、私は納得できなかった。金魚がいなかったのだから。××××私が金魚を飼い始めたのは20数年前。近所の人から金魚の子供を9匹いただいたからである。バケツくらいの瓶で飼い始めた。成長は早く2年後には卵を産み始めた。その子供に卵を産ませる。この繰り返しで金魚は増えていく。育てる容器も土木工事用の大きなプラスチックにかえた。年々金魚は増えていった。しかし、死亡する金魚も多かった。生き残るのは20%くらい。そんな感じであった。孫たちも小学生になると興味をもちはじめ、一緒に観察したり餌を与えたりした。時には手にして肌を触っていた。この動作の一つひとつが愛らしく、心が和んだ。ある日思いもしないことが起きた。アライグマに襲われ、たくさんの金魚が食べられたのである。無残な光景であった。孫たちは「可哀そう」と言って泣き出すものもいた。ところが孫たちは進級するごとに金魚への興味が薄れていった。金魚では友達ができないからである。今までにアライグマには3回襲われた。しかし、別の水槽に金魚がいたので飼育は続けられた。それが2年前に業者に家屋の外構工事をしてもらった。これが原因だと思われるが大量の金魚が死亡し、12匹になってしまった。そして今年は6匹になってしまった。××××この6匹は20数年前に飼い始めた9匹の金魚の子孫だ。絶やすわけにはいかない。「無事卵を産んでくれ」と祈るばかりである。一方、私は5月に80歳になる。たくさん飼うには体力的にきついので水槽は1個にすることにした。水槽や飼育道具などを処分していると、在りし日の金魚のことを思い出し懐かしくなった。「歳なんだなー」とつくづく感じる。4月22日、いつものように金魚の餌やり。ところが金魚がいない。水槽中央部にある酸素エアーポンプの近くにいないのである。あの日と同じ光景だったのでよくさがしたら、すべての金魚が壁の近くにいたのである。あの時の原因は「これだったのかー」と笑えてきた。水槽の色は濃い緑色。水が澄んでいれば金魚はよくわかるのだが、この日は濁っていて水槽と同じような色。見落としてしまったのである。このことを女房と娘に話した。「ふーん」と二人とも無関心。だけど私にとっては忘れることのできない出来事。原稿の最後の部分を書き直すことにした。しかし、締め切り日には間に合いそうもない。担当者にお願いに行かなければ。7 MORINOTAYORI