ブックタイトル森林のたより 837号 2023年6月

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概要

森林のたより 837号 2023年6月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ヤマウコギ214“これは俗にいわれるウコギですね”薄暗い渓流沿いでヤマウコギを見つけた人に説明しました。ウコギと呼ばれるのは主に中国原産のヒメウコギ(Acanthopanaxsieboldianus)ですが、地域によってはヤマウコギ(Acanthopanaxspinosus)を指しています。ウコギ科植物には他にエゾウコギ(Acanthopanax senticosus)やタラノキ(Aralia elata)、トチバニンジン(Panax japonicus)など、日本には約30種が分布しています。ヒメウコギは中国では古くからを唐音で「五加(ウコ)」と呼び、日本ではそれに「木」をつけて五加木(ウコギ)と呼ぶようになりました。日本最古の本草書『本草和名(918年)』にも五加木が記されていることから、相当古い時代に日本に渡来してきたことが裏付けられます。また、平安中期に編纂された『延喜式(927年)』に、ウコギの皮(樹皮、根皮)が「五加」の名で薬として朝廷に献上された記述があり、美濃の国(現在の岐阜県)が産地でもあると記されています。江戸時代初期の『清良記(1629~76年)』には、四月野菜に五加の名があり、葉を食したことがうかがわれます。また貝原益軒の『大和本草(1709年)』にもウコギを食用やお茶にしたことや、五加皮酒についても記されています。ヒメウコギは仏教と共に、薬用として伝来したと考えられており、日本のヒメウコギは大部分が雌株(一説には雌株しかない)で、ヤマウコギやエゾウコギに比べてトゲが少なく、葉も軟らかいため食用に適しています。山形県米沢市にはヒメウコギの生垣が多く見られましたが、これは財政難の米沢藩を再建させた上杉鷹山が、飢饉の食料源として奨励した名残と言われています。さて岐阜県で見られるヤマウコギは雌雄異株で、高さ2~5m、8月頃に黒熟する果実をつけます。ヤマウコギはトゲが鋭いため、戦国時代には敵の侵入を防ぐ目的で屋敷の垣根に盛んに植えられました。一般的に緑黄色野菜はゆでたり、電子レンジで加熱すると、ビタミン成分が生より少なくなったり、壊れて流れ出たりしますが、ウコギは変質しづらいとされます。最後に、日本では北海道にしか分布しないエゾウコギ(雌雄同株)は、シリガレジノールという成分を含んでおり、動物で脳細胞を若返らせ、記憶力を高める効果が実験で確かめられています。このエゾウコギの抽出エキスをモスクワオリンピックの旧ソ連選手が投与されていたことは有名で、1998年1月9日の日刊スポーツには、アジア大会などで金メダルを取ったマラソンの李ボンジュ選手、重量挙げの金テヒョン選手が「五加皮エキス」を服用していたと記されているほど、効果が認められているのです。▲新芽が美しいヤマウコギMORINOTAYORI 6