ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci.　第64巻　第2号　通巻 第292号

概要

教育医学 J.Educ.Health Sci.　第64巻　第2号　通巻 第292号

高齢ボランティアによるスクエアステップの指導が女性高齢者の下肢機能に与える影響―運動指導の専門家による指導との比較検討―Ⅳ．考察本研究では，高齢ボランティアによるSSE指導と専門家によるSSE指導の下肢機能への影響を比較した．その結果，高齢ボランティアによる指導であっても，専門家による指導であっても，高齢者の下肢機能に与える影響に有意な差はないことが確認された．SSEには，「ステップパターン」と呼ばれるステップや「5つの約束事」などのルールがあり，実践内容，実践時の注意点が明確になっている．そのため，指導者は，専門的な知識や技術を習得しているか否かに関わらず，指導のポイントを容易に理解でき，参加者の状態（正しくステップを踏めているか，ルールを守っているか）を適切に評価し，対応できると考えられる．また，笠間市における高齢ボランティアの養成講習会では，ステップの教示方法や上手く実践できない者への対応，ルールの説明方法を専門家がレクチャーし，講習会受講者はこれらの指導方法を繰り返し練習する．サークル群に対して運動を指導した高齢ボランティアは，重松ら19）の報告と同様，適切にSSEを指導できていたと推測される．さらに，本研究におけるボランティアは，活動年数が2.9±2.2年（最大7年3ヵ月，最小7ヵ月）と長期にわたって活動している者であった．彼女らは指導経験を積むことで，SSEのあらゆるステップを理解し，対象者に対して戸惑うことなく，的確に指導できる知識と技術を習得していたと推察される．SSEが運動指導に精通しない者でも適切に指導できる運動であるだけでなく，本研究の高齢ボランティアが長期，継続的な指導経験を有し，SSEの指導に熟知していたため，本研究ではボランティアと専門家の運動指導の効果に有意な差が認められなかった可能性がある．本研究では，全対象者の下肢機能に有意な変化が認められなかった．時間による主効果の効果量は，5回椅子立ち上がり時間において中程度の値，開眼片足立ち時間，timed upand goにおいて小さな値であったが，高齢ボランティアや専門家のSSE指導は，下肢機能の向上効果を生んでいなかったと考えられる．複数の先行研究では，高齢者における運動実践の身体機能への効果は，運動を始めた時点の身体機能水準の影響を受けると報告されており，水準の高い者に比して低い者の方が大きな効果が得られるとされる1,22,25）．SSEの実践効果についても同様の傾向がみられ，SSEを3ヵ月間実践した高齢者のうち，身体機能水準が低い者は高い者よりも効果を得やすいと報告されている4,27）．本研究では，下肢機能総合得点によってサークル群と教室群の対象者をマッチングし，開眼片足立ち時間や5回椅子立ち上がり時間が有意に良好だったサークル群に合わせて教室群の対象者が選定された．そのため，対象者は下肢機能が高水準の者に偏った可能性があり，SSEの実践効果を得にくく，下肢機能は有意に向上しなかったと推察される．また，先行研究では，SSEサークルに約1年間参加することで，高齢者の下肢機能の低下が抑制できること16），SSE教室を修了後も高齢ボランティアのもとでSSEを約1年間実践することにより，教室修了者の下肢機能は向上することが報告されている17)．本研究では3ヵ月という短期的なSSE実践の効果を検討したが，より長期・継続的な実践によって下肢機能に好影響が生じる可能性がある．さらに，本研究では，サークル群に対してSSEサークル入会から8.1±7.6日後にベースライン調査を実施した．そのため，サークル群の下肢機能は，SSEサークル入会時よりもベースライン調査時の方が良好になっていたと推測され，このことが本研究の結果に影響を与え，対象者の下肢機能に有意な変化が認められなかった可能性がある．今後は，SSE教室と同様，SSEサークルの入会直後に対象者の下肢機能を測定し，高齢ボランティアあるいは専門家によるSSE指導の効果を明らかにする必要がある．本研究には，いくつかの限界がある．サークル群と教室群は，高齢ボランティアあるいは専門家の運動指導のもと，おおむね同様のプログラムに取り組んだ．しかし，教室には健康に関する講話があり，運動プログラムに? 140 ?