ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第64巻 第2号 通巻 第292号

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概要

教育医学 J.Educ.Health Sci. 第64巻 第2号 通巻 第292号

高校生が抱える不安やストレスに対して体つくり運動が及ぼす軽減効果去に精神疾患を患った経験があり,その発症時期は不安障害が少年期,行動障害が10歳代前半,気分障害は10歳代後半に現れることが多いと述べている.これらのことから小学生から高校生の時期に,精神疾患を引き起こす可能性のあるストレスに対し予防的対応をとっていくことが必要である.運動がストレスを軽減することは広く知られている4).Shachar-Malach et al. 18)はうつ病患者を運動群(60?80%HRmaxの歩行を実施)と非運動群(ストレッチを実施)に分け,それぞれの運動を1週間に4日間(30分/日)実施し,これを3週間継続した.質問紙を用い,患者のうつ症状を実施前,実施1週間後,実施2週間後,実施3週間後,実施終了後1週間後に観察したところ,実施2週間後から実施3週間後において,非運動群と比較し運動群で有意なうつ症状の改善が確認されたと報告している.また不安障害を抱える者と運動との関係も報告されている.Krauss etal. 8)は10歳代の就学者を対象に,彼らが学校から受ける不安と日常的な運動の実施状況との相互関係について調査したところ,不安を抱えている者は日常的に運動量が少ない傾向が見られたと述べている.さらにストレスを受けるような状況に被験者を曝露し,その際の不安症状を観察したところ,運動習慣のある者は不安を感じにくかったという報告もある19).以上のことから10歳代におけるストレスの軽減を考えたときに,その手段の一つとして運動量の確保が挙げられる.高校生が運動量を確保する場として保健体育の授業が挙げられる.Bailey 2)によると,保健体育の授業を受けることにより葛藤などのストレス反応の改善がみられたと述べている.一方でWadhwa et al. 23)は大学生108名を対象に保健体育の授業を6カ月間実施し,その前後において大学生のうつ症状や不安症状,精神疾患などの変化について観察したところ,各症状で有意な変化は確認されなかったと結論づけている.ここから保健体育の授業による精神的な影響について統一的な見解が得られていない.保健体育の授業が生徒の抱える不安やストレスにどのような影響を及ぼすか観察することは,生徒が安定した学校生活や私生活を送るためにも有益であると考えられる.そこで本研究は生徒がストレスを抱えやすいと想定される各学期初め7),特に環境の変化の大きな新学期時に保健体育の授業の導入として扱う体つくり運動を行うことにより,生徒のストレスがどのように変化するか観察することを目的とした.Ⅱ.方法1.被験者公立高等学校O高校1,2年生4クラス117名(男子65名,女子52名)を対象とした.調査は質問紙の配布前に被調査者に対して本研究の目的について説明し,得られた調査結果は統計的処理により個人を特定できないようにした上で,研究成果等を公表する趣旨を伝えた.調査の結果に関わらず授業の成績に影響するといったことはなく,被調査者に不利益が生じないことを説明した.これらの説明は口頭にて行い,本調査に関する同意が得られた者のみに対して調査を実施した.質問紙を回収後,回答に不備のみられた7名(男子4名,女子3名)が分析から除外された.したがって分析対象は110名(男子61名,女子49名)であった.2.保健体育授業実施期間は新学期に相当する4 ? 5月に設定し,体つくり運動を各クラス5時間ずつ行なった.それぞれ1時間の授業時間は50分間であり,実施場所は体育館であった.内容は体の柔らかさを高める運動(1時間目),力強い動きを高めるための運動(2時間目),巧みな動きを高めるための運動(3時間目),なわを使った運動(4時間目),ボールを使った運動(5時間目)であった.1時間目は全身の柔軟運動を行った.生徒同士で補助し合いながらリラックスした雰囲気で実施した.2時間目は生徒同士が離れないように前の生徒の腹? 182 ?