ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第64巻 第2号 通巻 第292号

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概要

教育医学 J.Educ.Health Sci. 第64巻 第2号 通巻 第292号

訪問看護ステーション利用在宅高齢者における足病変とセルフケア行動の実態-歩行能力との関連性の分析-いない率が高かったのは,足の状態がより放置されている可能性があることが考えられた.皮膚白癬の傷から感染が広範囲になり蜂窩織炎や潰瘍形成になるリスクを避けるためにも,皮膚白癬の治療や保湿についての意識づけを在宅高齢者,介護者,医療関係者に周知することが必要である.爪の状態では,両群で有意差がみられなかったが,左右の第1から第5足趾までの10足趾に対する平均値をみると,両群に,爪の変色,肥厚爪,白癬様の爪,巻き爪,末梢骨が変形したことによる変形爪,厚硬爪などの病変が見られた.爪が白癬に罹患すると爪は白獨し,肥厚したりすることが指摘されている48).巻き爪や肥厚爪などの爪の疾患や変形は,外傷,爪切りの仕方,足の変形,足に合わない靴の圧迫,歩行不足,外傷,白癬症等が原因と言われており,多要因を含んでいる44,45).歩行できない群は肥厚,変色,白癬様の爪が多かったが,爪の病変は他要因が絡んでいるため,今後の更なる研究の蓄積が必要であろう.Hughesら18)は歩行分析の先行研究から,前足と床との接触における最終の段階において,体の重さの40%が足趾,特に第一足趾に力がかかるという報告をしている.肥厚爪や爪の変形があると爪が割れやすくなったり,剥がれやすくなったりして,浮指を引き起こす要因となり歩行が不安定になる可能性も推察される.足趾を含めた足の変形を来す原因として,筋力低下も関係していると指摘されている36).歩行不足は筋力低下に影響するため,足趾変形に有意差が見られたことが考えられる.外反母趾に関しては,海外の先行研究とほぼ一致する結果だった12,40).海外では大模模調査がされているが,今後は国内においても予防と歩行維持の観点から研究の蓄積が必要と考えられる.神経状態,循環障害では歩行できる群とできない群の間に有意差がみられた.37~77%の人に下肢の冷感がみられたが,歩行できない群の足は有意に冷感があった.ABI値は平均値を見ると基準値範囲内であったが,歩行できない群の足背,後脛骨動脈の触知は有意にできなかった.歩行できないことが下肢の循環状態に反映されていることが示唆された.ABI測定では測定不能者も多くおり,今後は在宅において,より正確に測定できる機器が必要であろう.在宅でより正確に測定できるようになれば,医療機関と速やかに連携をとり末梢動脈疾患の早期発見につなげることができる.背屈の角度では,通常の可動域を大きく下回っていた.Menzら29)は,他の研究結果も引用しながら,背屈底屈時の低下がバランス能力を阻害することを指摘している.先行研究では,加齢に伴う関節可動域の低下と足関節背屈角度の低下が転倒を引き起こす原因となることが報告されている16,39,43).臨床の現場では在宅高齢者の足趾は密着しており,十分開かない場合が多くみられるため,本調査では足趾を開いてもらい第1,2足趾の間の幅,第2足趾から第5足趾の開き具合を観察した.臨床の現場では,“足の指が開かない”や“足の指が少し開くようになった”などの声を聴くが,先行文献からみても足趾の開き具合を測定する尺度は皆無である。そこで,今回の客観的足病変の観察項目の観察方法は著者が独自で編み出した方法を採用した.著者が現在行っている健常成人対象の足趾の実態調査においても(未発表)健常成人の足趾の開き具合は在宅高齢者の開き具合に比べて大幅に異なる.足趾の開き具合を測定する場合,これまでに開発された足趾把34)握力測定器とは異なる足の筋肉が相互に関連すると考えられるため,今後十分な調査と検証をすることが,今後の研究の課題である.履物の特徴は高齢者のバランスに影響を与え30),不適な靴は胼胝や潰瘍や転倒のリスクを生み出すと考えられる.靴と足の関係については今後,地域高齢者や医療者への認識の高まりが必要である.3.主観的評価についての考察主観的な足病変の実態評価の11項目について歩行できる群と歩行できない群で比較した結果,いずれの項目においても有意な差は認められなかった,比較的感度が得られやすい? 176 ?