ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第64巻 第2号 通巻 第292号

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概要

教育医学 J.Educ.Health Sci. 第64巻 第2号 通巻 第292号

田路秀樹,梶原綾,江口善章いるが,本研究結果は後者を支持するものであり,歩行能力は男女とも同等に低下するといえる.歩行速度の低下に関して,除脂肪体8)重の減少と速筋線維の萎縮,下肢筋力の低25,40)37,41)下,特に大腿四頭筋の低下が影響することが報告されている.本研究においても除脂肪体重は男女とも有意に低下し,10m障害物歩行時間と同様性差は認められなかったことから,筋量の低下が歩行時間に影響を及ぼしていると考えられる.しかし,10m障害物歩行時間については本対象者が全国平均よりも明らかに高い能力を持った対象者であったことから,本結果は10m障害物歩行能力の優れた中高齢者の結果であり,一般的な中高齢者については今後の課題としたい.全身持久力としてのSSTwについて,体重当たりの最大酸素摂取量に日常の運動習慣が影響を及ぼす20)と報告されているが,本研究のSSTwはバイアスを男性は受けるが女性は受けにくいと考えられる.また,全身持久力の性差につ10,29)いて,性差が認められるとする報告,認17)められないとする報告があるが,本研究では性差は認められずSSTwは加齢とともに同等に低下した.さらに,長時間歩行運動としてSSTwを捉えたとき,短時間歩行運動である10m障害物歩行時間と同様の低下傾向を示した.Sanada et al. 35)は最大酸素摂取量と筋量との加齢による変化を検討し,有酸素性能力の加齢による低下には,脚部の筋量の低下が関連していると報告している.従って,SSTwの加齢による低下もまた除脂肪体重の低下及び特に下肢筋力の低下が影響を及ぼしているものと予測される.以上のことから,種々のバイアスを受けやすい項目は,体格では男女とも体重,体脂肪率,体力では男性が上体起こし,開眼片足立ち,10m障害物歩行時間,SSTw,女性が上体起こし,長座体前屈であった.また,各項目の回帰直線の傾きには握力にのみ男女差がみられ,男性の低下量が女性よりも著しいことも示唆された.健康寿命の延伸を諮るための課題として上記の結果を考え合わせると,どのようなバイアスかは特定できないが少なくとも体格面では生活習慣,体力面では特に男性は運動習慣に配慮しながら加齢による変化に対応していくことが重要な課題の一つと考えられる.Ⅴ.まとめ本研究は,加齢に伴う男女中高齢者の体格・体力の特性と性差を検討するため,60歳から83歳までの自立した中高齢者を対象に年1回の体力測定を13年間実施した.その内,3年間以上継続的に体力測定を実施した男性:48名,女性:40名から得られた結果を基にパネルデータ分析と時系列データ分析との比較から,次の結果が得られた.1.体格について,男性は身長,体重,体脂肪率,OSIが,女性は体重,BMI,体脂肪率,除脂肪体重がそれぞれバイアスの影響を受けた.2.パネルデータ分析により,男性は身長,体重,除脂肪体重が,女性は身長,体重,BMI,除脂肪体重が加齢に伴い低下を示したが,体脂肪率は男女とも加齢に伴い増加を示した.3.体力について,男性は上体起こし,開眼片足立ち,10m障害物時間,SSTwが,女性は上体起こし,長座体前屈がそれぞれバイアスの影響を受けた.4.パネルデータ分析により,男性は握力,上体起こし,開眼片足立ち,SSTwが,女性は握力,開眼片足立ち,SSTwが加齢に伴い低下したが,10m障害物歩行時間は男女とも増加した.5.加齢に伴う低下量について,性差が認められたのは握力のみであった.以上の結果から,体格は男女とも,体力は男性がそれぞれバイアスの影響を受け,握力にのみ性差が認められることが示唆された.利益相反:本研究による利益相反は存在しない.? 155 ?