ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第4号 通巻 第290号
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教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第4号 通巻 第290号
樊孟,松岡弘記,稲葉泰嗣,加治木政伸,吉村真美,松本孝朗Ⅰ.緒言超高齢化社会を迎えた日本において,2015年の平均寿命は男性80.75歳,女性86.99歳である10).世界保健機関(WHO)が発表した世界保健統計2016によると,世界一の長寿国は2015年同様日本であった23).しかし,日常的・継続的な医療・介護に依存しないで自立した生活22)ができる生存期間である健康寿命は2013年には男性71.19歳,女性74.21歳であり11),平均寿命と健康寿命との差を縮めることが社会的にも大変重要な課題となっている.高齢者の転倒などによる大腿骨骨折,腰椎圧迫骨折は,寝たきりの原因となり,健康寿命を大きく短縮させる3,12).健康づくりを目的とする運動として,中国武術,中でも太極拳は,その動きがゆっくりとしており,中高齢者にとって取り組みやすく,中国はもとよりアジア,欧米においても広く普及している.日本でも約150万人の太極拳愛好者がおり,割合としては中高齢者が多く,太極拳運動は中高齢者向きの運動として定着している20).中高齢者を対象として,太極拳を1回60分間以上,週2回以上,15週間?48週間継続すると,バランス能力の改善や転倒予防などの効果があることが報告されている2,4,13,14,24,26).カンフー体操は太極拳とともに中国武術の一つであるが,ゆったりとした動きが多い太極拳に比べ素早い動きが多く,打つ,蹴る,跳ぶなどの速い動作を含んでいる.また,その動作は軽快で覚えやすい.カンフー体操は自分の体を中腰で支え,また片足立ちで支えるための筋力を必要とするため,後期高齢者にとっては実施するのは難しいが,筋力が衰える前の中高齢者であれば実施可能であり,後期高齢者となるまでの比較的短い期間で体力の改善が期待される.しかしながら,カンフー体操に関する研究は,筆者らが検索した限り,1件のみであった6).この研究では参加した70歳以上の対象者を介入群(41名)と対照群(39名)に分け,週1回,1回当たり70分間の運動プログラムを計12回実施した.運動内容は,介入群は8式太極拳と6式カンフー体操を40分間,対照群はセラバンドによる上下肢の筋力トレーニングと音楽に合わせた歩行40分間であった.主運動の前後のウォーミングアップ20分間,ならびにクールダウン10分間は両群合同で実施した.12週間の運動介入の結果,体力測定値の変化は両群の間で有意な違いはなかったが,Timed Up and Go Testは,両群とも有意な改善が認められた.これにより,太極拳のみを行う場合に比べて,太極拳にカンフー体操を組み合わせた場合,より短期間に体力(とくに下肢)が改善する可能性が示唆された.しかし,この研究も太極拳にカンフー体操を組み合わせた運動について調べており,カンフー体操のみの効果について調べた報告はない.そこで,本研究ではカンフー体操を用いた6週間にわたるプログラムが,中高齢者(50歳?70歳)の行動体力に及ぼす影響について,他の運動種目を用いたプログラムを比較対照として検討することを目的とした.対照群の運動プログラムの運動種目にはラケットスポーツを選択した.ラケットスポーツは前後左右に動いて下肢をよく使うスポーツであり,カンフー体操と同じように素早い動作を必要とし,下肢筋力やバランス能力などの体力にも効果が期待できる.また,生涯スポーツとして実施している者も多く,親しみやすいスポーツである.Ⅱ.方法1.参加者「地域住民のための健康づくり運動教室」(以下「教室」と略記)はA大学の体育研究室の主催により,地域貢献や中国武術の普及・発展を目的とした事業の1つとして毎年開催している.対象は名古屋市在住で継続参加できる20歳以上である.本年度はカンフー教室とラケットスポーツ教室の2種類の教室を設けており,その教室へ応募した者に対して,研究参加同意説明文を配布し,参加者を募った.? 325 ?