ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第4号 通巻 第290号

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概要

教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第4号 通巻 第290号

学童野球選手の野球技能と複合的運動課題成就能力の関係Ⅰ.緒言野球では走る,打つ,投げる,捕るといった運動技能が,単一ではなく複合的に求められる.例えば,野球における走能力は,ただ単に走るだけでなく,ボールを追いかけながら走り,キャッチするなど,他の技能と合わせて発揮されることが多い.走塁時には,ただ直線を走るだけでなく,方向転換を伴いながら少し弧を描くように走ることが要求される12).加えて,打者の打球に応じて,進む方向や経路を選択する状況判断力も必要になる1).守備では,単純に投げる,捕るだけでなく,一連の動きの中で動作を組み合わせて完結させなければならない.また,多方向に飛んでくる打球に対応する能力も求められる.打撃では,ボールを正確に捉えることやバットスピードを加速させる能力が必要となる4,8,9,18).以上のような競技特性を持つため,野球技能の評価には,特別なフィールドテストや熟練指導者の主観的評価を用いることが多い2,3,6,14).例えば,フィールドテスト結果と打撃や投球速度などの野球の専門的スキルの関係を検討した研究が数多く報告されている5,14,18,19,20).これらのフィールドテストには,メディシンボール投げや立ち幅跳び,反復横跳び,30m走などの測定項目がある.また,指導者による主観的評価を用いた評価方法に関して,河村ら6)が,大学野球選手を対象に,打撃,守備,走塁における指導者の主観的評価を数値化し,16項目のフィールドテストの結果との関係を検討し,熟練指導者による主観的評価が適切であることを報告している.学童野球選手の登録数はサッカーに次いで多く,学童野球に関わる指導者,保護者も多い.そのため,指導者は熟練者だけではなく,競技歴や指導歴が短いことから,適切に野球技能の評価を行うことが困難な場合もある.したがって,学童野球において,誰でも行える簡便さを持ち,かつ複合的に運動能力を客観的に評価する方法が必要となる.しかしながら,既存のフィールドテストでは,1つの体力要素を1つの測定項目で評価するため,野球に必要である複合的な運動技能を評価できていない可能性がある.また,指導者による主観的評価では,熟練した観察スキルが必要になるため,簡便に行えるものではない.複合的な運動能力を評価するテストとして,新体力テストに「連続性」と「多方向性」を加えたCMT(Complicated Movement Tasks:複合的な運動課題)テストが考案されている17).CMTテストは,ジグザグ走,両足3連続跳び,連続壁当てボール投げの3つの測定項目から構成され,従来の新体力テストでは評価できない異なる身のこなしやボールを操作する能力,基礎体力・運動能力全般を把握できる新しい運動能力テストである.このことから,CMTテストにおける複合的な運動課題の成就能力が学童野球選手の野球技能と関係している可能性が考えられる.仮説のとおり両者の関係が認められた場合,CMTテストは,学童野球における野球技能の客観的評価に応用できることになる.そこで,本研究では,学童野球選手を対象に,熟練指導者の主観的評価による野球技能とCMTテストにおける複合的な運動課題の成就能力との関係を検討することを目的とした.1.被験者Ⅱ.方法本研究における被験者は,野球チームに所属する児童297名(18チーム)であった.具体的には,野球歴1年以上の3年生69名(身長130.6±6.0cm,体重27.6±4.4kg),4年生90名(身長137.0±5.9cm,体重31.0±5.5kg),5年生76名(身長141.4±7.3cm,体重34.3±6.4kg),小学6年生62名(身長148.4±7.4cm,体重38.9±7.2kg)であった(表1).事前に協力チームの表1被験者の身体的特性身長(cm)体重(kg)nMSDMSD3年生69130.66.027.64.44年生90137.05.931.05.55年生76141.47.334.36.46年生62148.47.438.97.2n:被験者数M:平均値SD:標準偏差? 316 ?