ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第4号 通巻 第290号

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概要

教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第4号 通巻 第290号

小木曽加奈子,伊藤康児は,ほとんどの下位項目間で相関関係がみられたが,「給料」と「易怒・興奮」は関係がみられず,他のN-DS-HFの下位項目間とSS-BPSDの下位尺度間と比べ「給料」はSS-BPSDの下位尺度間と比べ関係性は低かった.「給料」の満足度が高くともBPSDに向き合うケアの実5)践にはつながらないことを示している.後藤は生活リズムを整えるケアを行うことで,高齢者を支える看護職としての誇りを確認できる,と述べており,「看護職としての誇り」はBPSDに向き合うことができる認知症ケアの実践力の向上によって高まることが示唆される.「看護職としての誇り」は,年齢・認知症ケアの年数・年収にも関係があり,「アセスメント力を活かしたケア」は認知症ケアの年数・年収との関係がみられた.医療機関における経験年数や年齢と職務満足度との関連16)を検討した先行研究は多いが,高齢者施設における見解とは異なる点もある.緒形ら21)は,特養に勤務する看護職は,医療機関での経験や主婦業・育児のライフイベントなどの経験も含め,年齢が高くなるほど自分自身や高齢者理解の深まりにつながり,高齢者看護分野への志向が高まることが推測される,と述べており,本研究においても,年齢及び認知症ケアの経験年数は「看護職としての誇り」との関係が示されており,同様な結果であるといえる.高齢者施設における看護職としての誇りは職務満足としても重要であり,看護職は現在の職場や職業にこだわらず専門性を生かしてより自己の適性に合わせた職場,職業を求めていると推測される20).病院に勤務する看護職の仕事の満足は【管理システム】と高い相関があることが示されており30),また,加藤ら8)は,中高年看護職者は仕事の満足度に影響する要因は,組織的要因では〔看護管理システム〕が最も大きいことを指摘している.認知症ケアにおいては,看護職は認知症高齢者の認知機能や今おかれている状況を評価することにより,認知症高齢者を一人の人として捉えることを大切にしたケアを行うことで,よりよい関係性を築くことができる.中根ら17)は教育・研修がすでに経年毎にプログラム化されている病院とは違い,老健では,さまざまな職種が協働していることもあり,その教育システムは試行錯誤の段階にある,と述べている.また,老健に働く看護職は,豊かな臨床経験を持っているが,資格や基礎教育の背景に特徴があり,これを考慮した現任教育プログラムが必要である31)ことも明らかになっている.老健の調査ではないが,特養における人材育成の課題として,【看護職の系統的な教育体制が整備されていない】4)ということも明らかになっており,看護職としての誇りが高まるような支援が重要である.「看護職としての誇り」は,自分自身の生活体験や認知症ケアを実践していくことでより高まるため,職務の継続を強めるためには,認知症高齢者のBPSDに対するケア力を育むことが重要であることが示唆される.3.モデルの仮説検証についてパス図を前提として解析を行うと,SS-BPSDである「易怒・興奮」「拒薬・拒食・拒絶」「行動的攻撃(暴力)」「不潔行為」の4つの領域から成る〈BPSDに向き合うケア〉の実践は,N-DS-HFの「看護師としての誇り」「労働と休息のバランス」「職員間協働の実践」「給料」「アセスメントを活かしたケア」「制度や法律が基本」の6つの領域から成る〈老健の看護職の職務満足〉と互いに影響を及ぼしあっている.つまり,認知症のBPSDに向き合うケアが実践できれば老健の看護職の職務満足度が高まり,職務満足度が高まれば,BPSDに向き合うケアの実践もされることを示している.本研究により,〈老健の看護職の職務満足〉は,〈職務の継続〉に影響を及ぼし,〈職務の継続〉は,仕事全体の満足度,転職意向,離職意向,にも影響を与えるというモデルが検証でき10)た.公益社団法人日本看護協会医療政策部によると,老健では,認知症高齢者の日常生活自立判定基準『Ⅲ』が37.6%,『Ⅱ』33.0%,『Ⅳ』11.5%などとなっており,『Ⅱ以上』の利用者は85.0%に上っている.老健では認知症から派生するBPSDによって,ケアを行う? 311 ?