ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第3号 通巻 第289号

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概要

教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第3号 通巻 第289号

高齢者のもてる力の看護実践への活用-高齢者看護学実習における看護学生の意識に焦点をあてて-る成果であると考える.その一方で,【高齢者のもてる力を看護援助に取り入れることができない】場合もあった.高齢者のもてる力を把握するには,日常生活の一つ一つの動作がどのように行われているかを詳細に観察することが不可欠である.《できないという思い込みから脱却できない》学生の場合,もてる力を把握する過程での情報収集に何らかの不足があったことが予測される.「高齢者の顕在する問題状況にとらわれやすく,内在する能力を見出しにくい」9)との報告にあるように,高齢者の疾患や障害のみ着目し,何もできない状況にあると思いこんでしまった場合,できる可能性のあることを探すことが困難となってしまったといえる.高齢者のもてる力を把握し,活用するためには,高齢者がなりたいと望む姿を思い描く3)ことが欠かせない.しかし,北川が指摘するように,自分自身のなりたい姿を具体的に語ることのできる高齢者は多くない.学生が,《高齢者の思いを引き出せない》背景には,「認知症や廃用症候群などにより高齢者自身の意思をその周囲にいる人々が明確につかむことがむずかしい」4)ことがある.今回対象となった学生は教員・指導者との関わりを通じ,高齢者個々の特徴を踏まえた看護実践に関する気づきを得ていた.実習指導における教員と指導者の役割について石1)田は,教員の役割は「事例からルールへの機能的な施行を意図的に行わせ,さらに知識の構造化について保証すること」であり,指導者の役割は「適切な実践の具体例を示したり,工夫したりする」ことにあると述べている.田中ら10)が「教員は個々の学習段階に応じた支援を適切に行う実践能力が求められる」と述べているように,学生の傾向を踏まえた関わりが,教員と指導者の連携のもとに行われるのであれば,学生は一貫した指導が受けられることになる.教員および指導者が,学生が対象理解のどの段階で躓いているかを把握し,実習初期の段階から関わりを積み重ねることが学生の自主的な学習につながると期待できる.高齢者の看護問題の解決のみに関心が向きがちな学生の視点を目標志向型思考に導く上で教員の果たすべき役割は大きい.そのためには,実習の初期段階から学生がカルテの記載内容に留まらず対象の心理・社会面など多様な情報に目を向けることができるよう,情報収集の視点と収集方法を併せて提示することが重要と考える.このように高齢者看護におけるさまざまな現象を教材化し,学生が高齢者のもてる力を看護実践へ活用するための考え方を身につけることができるような指導体制を整えたい.利益相反:本研究による利益相反は存在しない.著者資格:SHは,研究の着想から原稿作成の全プロセスに貢献した.STおよびIAは,論文全体の完成度について貢献し最終原稿を読み,了承した.文1)石田智恵美(2006)看護学実習における臨床指導者を含めた教材化と教師の役割,九州大学大学院教育学コース院生論文集,6,23-48.2)金井一薫(2004)「KOMI理論」,26-36,現代社,東京.3)北川公子(2010)目標志向型思考で探求する高齢者のもてる力,看護教育,51(10),856-861.4)北川公子(2014)「系統看護学講座専門分野Ⅱ老年看護学」,81-83,医学書院,東京.5)厚生労働省(2016)平成28年度厚生労働白書,http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/16/.2017年3月15日閲覧6)松波美紀,箕浦とき子,温水理佳,吉川美保(2008)高齢患者の“持てる力”の活用を強調した老年看護学実習の検討?実習記録の分析から?,老年看護学,12(2),60-67.7)尾島俊之(2015)健康寿命の算定方法と日本の健康寿命の現状,心臓,47(1),4-8.献? 278 ?