ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第3号 通巻 第289号

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概要

教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第3号 通巻 第289号

危険予知トレーニングの手法を導入した児童に対する水難事故防止学習に関する事例的研究れなかった.児童は,河川よりも海水浴を身近なレジャーとして捉えていると推察された.児童の記載内容について危険回避の方策別に分類したところ,危険行為をそのまま禁止する「危険対処型」が最も多く(60.6%),次いで,危険な行為の代わりとなる何かを提示する「置換型」(28.2%),事前配慮の上,安全に遊ぼうとする「安全対策型」(11.3%)であった.「危険対処型」が全体の約6割を占めているように,3つの型の構成比は河川と同様の傾向が見られた.「水」の特性に関する記載は,波についての一回答だけであった.河川と同様に水の特性を伝える方法が課題であった.2.質問紙調査による「リスク認識」と「対策実行認識」の分析表6は,リスク認識と対策実行認識の平均得点と標準偏差及び多重比較の結果を示した.平均得点の変容を検討した結果,リスク認識の2項目(日本・友人)で事前より直前,遅延の方が平均得点は高かった.対策実行認識の項目には,有意な変容はみられなかった.直後効果と残存効果が認められた,2項目(日本・友人)は,熟練教師が事後指導を実施した稲垣ら5)の先行研究と同様の結果であった.着衣泳だけを実施した稲垣ら4)の報告では,2項目(日本・友人)は直後効果だけが認められ,残存効果が見られないことから,リスク認識は,事後指導を実施することによって学習効果が残存する可能性が期待できることが示唆された.Ⅳ.おわりに危険予知トレーニングで用いた児童のワークシートの記述を分析したところ,イラスト中の危険について,児童は人物に焦点を当てる傾向が示唆された.危険予知トレーニングの人的要因として不安全行動の危険予測を学習するというねらいに沿った学習が行われたことが示唆された.一方,環境に対しては,記述はあったものの,相対して多くなかった.よって,周囲の環境に目を向けさせるようイラストを工夫することや教師の助言が肝要であることが示唆された.対策についても,行動要因に関する記述数が多く,特定の行動に対して「?しない」という言葉が示すように,「危険行為への注意喚起」が強くはたらくことが推察された.質問紙調査を分析したところ,危険予知トレーニングは,児童のリスク認識を残存させる効果があることが示唆された.しかし,対策実行認識を残存させるには,リスク認識への効果を下げないように授業の改善を進めな注2)ければならないことが明らかになった.最後に,本研究は,学校教育現場における水難事故の対策が学校体育における着衣泳に依っている現状に対して,未然防止の観点からの教育についての可能性と課題を見出したという点において意義が認められるだろう.また,水難事故の未然防止に資する学習について危険予知トレーニングに着目したが,9)学習指導要領に明記される「水泳の心得」の内容ついても水難事故の未然防止の観点から検討する必要がある.利益相反:本研究による利益相反は存在しない.謝辞本研究を遂行するに際し,A小学校の先生方,児童の皆様には大変お世話になりました.勝木奈美恵先生,三好麻里子先生,経石了誠先生には,研究全般に理解をいただき多大なご協力をいただきました.福井大学大学院教育学研究科の大田美紀院生,菅原慎弥院生には,イラスト作成にあたり貴重なご意見を賜りました.福井大学教職大学院宮下哲先生には,危険予知トレーニングの進め方に関する貴重なご助言を賜りました.記して感謝申し上げます.本研究はJSPS科研費JP15K01520の助成を受けた.? 272 ?