ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci.　第63巻　第3号　通巻 第289号

概要

教育医学 J.Educ.Health Sci.　第63巻　第3号　通巻 第289号

トップアスリートの行動と大学生競技者のスポーツ継続意図の関連コミットメントを形成している可能性が示唆される．この結果は，社会心理学領域における見解と同様の知見を得たと考えられる．社会心理学領域においてTyler and Blader 16）は自分の所属する集団や社会が高地位である場合，人々はそこに所属していることに対するアイデンティティーを強め，行動に対するコミットメントを増大させているとしている．すなわち，本研究の結果と合わせて考察すれば，所属する国において，オリンピックなどの国際大会で活躍する自国のトップアスリートの行動を認知することは，スポーツ実施者の競技者としてのアイデンティティーを強め，スポーツに対するコミットメントを高めている可能性が推察される．また，Bush et al. 3）は，トップアスリートから発信される態度・行動というメッセージは，青年期のスポーツ実施者に強い影響を与えていることを示しているが，本研究ではとりわけ，挑戦的行動，スポーツパーソンシップといった態度・行動が青年期の競技者のアイデンティティーに影響を与えていることが示されたことから，より具体的にどのようなトップアスリートの態度・行動が青年期のスポーツ実施者に受け入れられ，そして，彼らの自己形成に影響を与えるかについて検証できたと思われる．しかしながら，本研究では，内在化の過程，つまり，競技者アイデンティティーを形成するに至るまでのプロセスは検証されていない．今後の研究においては，アスリートの行動を認知し，それがどの程度，スポーツ実施者に内在化され，そして，スポーツ傾倒意図に繋がるかを検証することでより詳細にトップアスリートとスポーツ実施者の関連について検討することができるであろう．また，本研究で得られた知見をより厳密に検証するためにはサンプル数を増やすこと，および，対象地域を拡大することなど研究データの蓄積が必要となるであろう．Ⅴ．結論本研究では，トップアスリートの行動および態度を評価するための尺度を作成し，また，トップアスリートの行動を基軸として大学生スポーツ競技者におけるスポーツ継続意図を検証した結果，トップアスリートの行動で特に競技に対するひた向きな姿勢やスポーツパーソンシップらしい行動を認知しているスポーツ実施者は自身の競技者としてのアイデンティティーを高め，スポーツへの継続意図を示している可能性が示唆された．わが国のトップアスリートの行動とスポーツ実施者の関連について一考察を得ることができたと思われる．Ⅵ．謝辞本研究はJSPS科研費JP16K16551の助成を受けたものです．なお，本研究においてその他開示すべき利益相反状態はない．注注）「人間の首尾一貫した行動を説明する概念であり，それ以外の行動（サイドベット：Side-bet）を認知することで，本来，実行しようとしている行動に傾倒すること2）」文献1）Arai A, Ko Y J and Kaplanidou K (2013)Athlete brand image: scale development andmodel test, Eur Sport Manage Q, 13(4), 383-403.2）Becker H S (1960) Notes on the concept ofcommitment, Am Sociol Rev, 66, 32-40.3）Bush A J, Martin C A and Bush V D (2004)Sports celebrity influence on the behavioralintentions of generation Y, J AdvertisingRes, 44(1), 108-117.4）Carlson B D and Donavan D T (2013) Humanbrands in sport: athlete brand personality andidentification, J Sport Manage, 27, 193-206.? 264 ?