ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第3号 通巻 第289号

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概要

教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第3号 通巻 第289号

萩原悟一,下園博信,黒田次郎,大下和茂,秋山大輔,中田征克わりがあることが示されており,将来的な国民の生涯スポーツ実施を促すためにも青年期における競技スポーツ実施に焦点を当てた検証が必要であるといえる.わが国では2020年に東京オリンピック開催が予定されており,国民の競技スポーツへの関心の高まりおよび,国際大会等で活躍するトップアスリートの行動に人々の注目が集まることが予想される.特に,トップアスリートの活躍およびポジティブな行動は,多くの人々に影響を与える可能性が示されていること4),トップアスリートから発信される行動・態度などのメッセージは青少年への影響力が強いこと3)などが指摘されていることから,わが国においてもトップアスリートの行動とスポーツ実施者の関連に着目した検証が必要であると思われる.これまで,アスリートと競技スポーツ実施者に関する研究では,高い技術を持つアスリートの試合を見ることが,競技スポーツ実施者の行動意図や継続意図を高める可能性があることが示されている13).13)霜島・木村は56名のテニス観戦者を対象に,高い技術力のあるテニス選手の試合観戦前後でテニス実施継続意図を測定した結果,観戦前と観戦後ではテニスの継続意図が向上する傾向にあることを示している.一方,上述した先行研究では,アスリートの観戦に焦点を当てた検証は進められているものの,アスリート個人の具体的な行動・態度に着目した研究はほとんど行われておらず,それらを評価する尺度は存在しない.また,トップアスリートの行動とスポーツ実施者の競技スポーツ継続意図に至るまでの心理的プロセスを示した研究はほとんど見受けられないことから,トップアスリートと青年期スポーツ実施者の関係を明らかにする上で検討が必要であろう.ところで,社会心理学領域においてMead 10)は,人は集団・組織の中に所属しており,その中に所属する成員の態度や行動を自身の中に受け入れることで,「一般化された他者」としてその態度・行動を内在化するという心理的プロセスを経て自己を形成すると主張している.つまり,所属する集団の中での他者の態度や行動が,自身の自己を形成する要因の一つである可能性が示されている.また,Tyler and Blader 16)は自分の所属する集団や社会が高地位である場合,人々はそこに所属していることに対するアイデンティティーを注)強め,行動に対するコミットメントを増大させているとしている.すなわち,オリンピックなどの国際大会で活躍するわが国のトップアスリートのポジティブな態度・行動はわが国のスポーツ実施者の競技者としてのアイデンティティーを強め,スポーツに対するコミットメントを高めている可能性が推察される.以上のことから,本研究では,青年期の競技スポーツ実施者によるわが国のトップアスリートの行動評価を基軸としたスポーツ競技者の競技者アイデンティティーとスポーツ継続意図との関連を検証することを目的とした.青年期のスポーツ実施者の競技スポーツへの傾倒意図にわが国のトップアスリートの態度・行動がどのような影響を与えているのかを心理社会的側面から検討することで競技スポーツ実施者を増加させる一考察を得ることができると考えられる.Ⅱ.方法1.調査対象者調査対象者は九州地区にある大学2校で競技スポーツを実施する大学生競技者297名(平均年齢=19.16,SD=.93)とした.なお,対象者の週平均競技スポーツ活動時間は17.55±7.41時間であった.2.手続き本研究における調査対象者の倫理的配慮については調査用紙配布前に,本研究の意図を説明し,調査内容については統計的処理により,個人を特定できないようにし,研究結果等を公表する趣旨を口頭および書面にて説明し,承諾できる者のみに対して調査を実施した.3.調査項目1)トップアスリートの行動評価の測定項目アスリートの行動を評価するための尺度を? 261 ?