ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第3号 通巻 第289号

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概要

教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第3号 通巻 第289号

地域包括ケア病棟における認知症高齢患者のもてる力の活用の現状と課題ことを行っていた.患者のもてる力を正しくアセスメントするには〈多職種との連携・情報交換・共有を図る〉ことが必要であると認識していたことから【多職種との連携を図りながら退院を見据えた患者のもてる力の把握】と命名した.4)【患者のもてる力の活用ができない状況】実際の病棟においては,患者の認知機能の低下などにより転倒・転落のリスクが高い場合は,〈もてる力の活用より安全を優先させる〉ことがある.さらに点滴や検査等がある場合は,〈もてる力の活用より治療を優先させる〉といったことがあることから〈もてる力の活用が難しい〉状況にあり,【患者のもてる力の活用ができない状況】と命名した.5)【認知症によるもてる力の活用の困難さ】認知症高齢患者は,環境の変化への順応性は低く,精神状態や生活リズムに大きな影響を与え,時に昼夜逆転に至ることも少なくない.病棟看護師は,患者の入院や転棟により,〈環境の変化による影響〉は大きくもてる力を左右すると捉えていた.また,〈家族による患者の認知症への理解不足〉により,患者のもてる力を十分に活用することが難しいと認識していることから【認知症によるもてる力の活用の困難さ】と命名した.Ⅳ.考察病棟看護師のインタビューの逐語録から抽出したコードを「」斜体で示しながら考察していく.1.病棟看護師における認知症高齢患者のもてる力の活用の現状認知症患者に限らず,高齢者の場合,急性期の入院加療に伴い,ADLや生活機能が低下し,以前のような在宅や施設に容易に復帰できないことが多く見られる.そういったことの対策として,機能訓練を積極的に行い,退院に向けた支援を強化していくため2014年より地域包括ケア病棟が創設された.病棟看護師は,患者が退院するまでの60日を限度とする限られた日数の中で,【在宅復帰に向けての関わり】を意識していたことは,在宅復帰を目標とする病棟の特徴であるため当然のことといえる.具体的には,「抑制をする時だけでなく外す基準を考えている」のように,治療上必要と判断された抑制であっても,患者のもてる力を奪ってしまいかねないため〈抑制を最小限にすることを心がける〉姿勢を持っていた.治療の安全施行のため,一度実施された抑制は漠然と継続される傾向があり,退院まで身体拘束されることが多い現実に,具体的解決策を見出せず閉塞感を感じている看護師は多い8)というような現状に疑問を抱き,不必要な抑制は,復帰の弊害になると認識していたと考える.今や,高齢者への身体拘束に対する倫理意識は高まり,身体拘束ゼロが叫ばれていることから,不必要な抑制を外すためのマニュアルや基準を検討していく必要がある.また,病棟看護師は,【入院生活の中で患者のもてる力を意識した関わり】に努めることで退院支援につなげていた.例えば,「日光浴をすると夜間の睡眠がとれる患者がいる」ように,日常生活にメリハリをつけ〈生活リズムを整える働きかけ〉をすることも大切な看護師の役割である.さらに,入院により精神的な落ち込みから意欲のない患者に対して「デイルームで食事をしていると気の合う患者同士で和気あいあいとしている」のように,入院生活の中において〈他者との交流を図る働きかけ〉を行うことで気分転換し,脳への刺激,覚醒を促すなど患者にとって,精神的な安定を保ち,意欲的になるなど,日常性を保持し元の生活へ戻るための介入も重要である.北村ら7)は,一般病棟看護師を対象に,入院高齢者に対する活動性低下予防のケアに影響を及ぼす要因として,『もてる力の維持・向上』を挙げている.また,井上ら4)は,患者のもてる力に着目するにあたり特徴的なのは,高齢者は個々多少なりとも身体的な機能の衰退が認められることであり,その上で,その人のもてる力を最大限に引き出すことは自己効力感を増し,その人がこれまでの自分? 256 ?