ブックタイトル教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第2号 通巻 第288号
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教育医学 J.Educ.Health Sci. 第63巻 第2号 通巻 第288号
学習動機づけが後の学習結果に及ぼす効果:大学生を対象とした自己決定理論に基づく検討キーワード:学習動機づけ,学習関連適応感,自己決定理論,大学生,縦断データKeywords:academic motivation, learning-related adjustment, self-determination theory, collegestudents, longitudinal dataⅠ.はじめに1.自己決定理論による学習動機づけ教育における最も重要な要素のひとつが学習者の学習への動機づけであることは,論を俟たない.動機づけはこれまで膨大な研究がなされ,多くの理論が提唱されてきた概念である.この動機づけ理論の中で,欲求論的アプローチのひとつとして近年注目を集めるものが自己決定理論である2,13).自己決定理論における特色のひとつは,動機づけのない状態である無動機づけ,道具的理由に基づく外発的動機づけ,そして一般に外発的動機づけと対比される内発的動機づけを,自己決定性の最も低い程度から最も高い程度として同一次元上に連続的に並置する点である.自己決定性の強弱は主体的な行動の調整(regulation)における違いを表す.自己決定理論において,動機づけの質的な相違の類型化を意味するのが,調整の相違に基づく調整スタイル(regulatory style)である(図1)2,13).無動機づけには無調整,内発的動機づけには内発的調整と呼ぶ調整スタイルが対応づけられる.外発的動機づけは調整の弱い調整スタイルから順に,外的調整,取り入れ的調整,同一化的調整,統合的調整の4つに分節化される.学習を例に非自己決定的な調整スタイルから説明していくと,学習への意欲のない無調整,他者による強制や罰等によって他律的に学習する外的調整,学習の意義を受け入れつつも,主に自己評価の維持等のために学習をおこなう取り入れ的調整,学習の価値がかなり内在化され,より自発的に学習する同一化的調整,学習の価値が自身の価値として統合され,かなり自律的な学習が可能となる統合的調整,そして,興味や知的好奇心等から自己目的的,自律的に学習する内発的調整となる.さらに,外的調整と取り入れ的調整は統制的調整,同一化的調整から内発的調整は自律的調整と呼ばれる.それぞれが相当する統制的動機づけと自律的動機づけは,従来の外発的動機づけと内発的動機づけの2類型とは異なる,自己決定性の程度差に基づく対照的な類型といえる14).2.自己決定理論による学習動機づけ動機づけは行動を生起,継続させ,方向づけることから,行動の結果における主要な規定因である.つまり,学習動機づけは,行動としての学習にまつわる個人の多様な結果を規定する要因である.こうした結果のひとつが学習関連の適応であり,その1指標としての学習関連の適応感(以下,学習関連適応感)がある10,1?).この適応感も様々な側面をもつ概念であることから19,24),学習関連適応感の評価には多様な側面を扱うことが有益といえよう.自己決定理論は動機づけのみでなく,適応を理解する枠組みをも提供する2,13).この理論から,自律性の高い行動は適応に結びつくということができる13,14,1?).つまり,学習動機づけにおいて,より自律性の高い動機づけ,すな非自己決定的自己決定的動機づけ:無動機づけ外発的動機づけ内発的動機づけ調整スタイル:無調整外的調整取り入れ的調整同一化的調整統合的調整内発的調整統制的調整(統制的動機づけ)図1自己決定理論による動機づけと調整スタイル自律的調整(自律的動機づけ)? 176 ?