森林のたより 713号 2013年2月

森林のたより 713号 2013年2月 page 6/18

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岐阜県立森林文化アカデミー●柳沢直おじいさんは山へ柴刈りに日本人ならだれでも知っているフレーズ、「おじいさんは山へ柴刈りに……」ですが、今、山に柴を刈りに行っているおじいさんは全国にどれだけいるでしょ....

岐阜県立森林文化アカデミー●柳沢直おじいさんは山へ柴刈りに日本人ならだれでも知っているフレーズ、「おじいさんは山へ柴刈りに……」ですが、今、山に柴を刈りに行っているおじいさんは全国にどれだけいるでしょうか?身近にそんな光景を見たことがありますか?ないですよね。けれど岐阜県には、まだ柴刈りをしておられるおじいさんがいるのです。我々の暮らしの近くには、昔から生活のための燃料や、農業のための肥料などを供給してきた里山の林があります。これらの林は数千年にわたって我々の先祖から引き継がれ、使われてきた自然ですが、戦後の生活の変化によって、手入れがされなくなってしまいました。昔は都市部も含めて木炭が生活に不可欠だったため、炭焼きは経済的に引き合う生業でした。しかし、現在は一部の高級炭を除いて木炭は多くが輸入されており、そういった利用もされなくなってきています。手入れがされなくなった林は植生遷移が進み、常緑樹の多い暗い林に変化してしまい、姿を消した生きものも多いのです。スギやヒノキの人工林は建築材など基本的に木材の生産を目的にしており、生産される材の用途は限られています。しかし、里山の林は、燃料・肥料・キノコ(ほだ木)の生産など、多くの使い道があります。里山の林を保全するためにも、いろいろな用途で里山を利用していくことが大切だと思います。さて、話を戻しますが、昔、河川工事などで普通に使われていた資材に「粗朶(そだ)」があります。聞き慣れない言葉ですが、昔話でおじいさんが山で刈っていた「柴」の束と同じものです。河川工事で使われる粗朶は、直径5cmに満たない細い木を束ねて長さ2m70cm以上、直径20cm程度に縛ったもので、針葉樹を除く、里山の林に生えているほとんど全ての広葉樹を使うことができます。粗朶の束は昔から「柴漬け漁」という伝統漁法でも使われており、川に沈めておくだけでエビや小魚が入り込むことが知られています。森林文化アカデミーの課題研究で、生物のほとんど棲まない用水路に粗朶を設置したところ、モクズガニやヌマチチブをはじめとして多くの魚や甲殻類、水生昆虫が集まってきました※1。また、粗朶の内部は魚類等の産卵床になるとも言われています。粗朶を河川改修などに使うことによって、里山の林の手入れが進み、同時に川の生物相も豊かになります。また、粗朶を使った粗朶沈床工法は、環境負荷の少ない工法でもあります。標準的なコンクリートブロックを用いた工法は、高炉セメントや鉄筋を製造する際に大量の化石燃料を使うのに対し、粗朶は天然素材であるため、環境負荷が少ないと言えます。施工の際の材料運搬や、施工そのものに必要な環境負荷を、ライフサイクル全体のCO2排出量で比較すると、粗朶沈床を用いた工法の環境負荷は、コンクリートブロックによる工法の2744分の1と報告されています※2。また、耐用年数をコンクリートブロック50年、粗朶沈床を130年とした場合のライフサイクルを通じた費用は、コンクリートブロックでは廃棄費用と維持管理費用が生じるため、粗朶沈床を用いた工法の1・7倍が必要と試算されています※2。よいことづくめの粗朶の利用ですが、問題もあります。一つは粗朶の生産者が高齢化していることです。岐阜県内で粗朶を生産されている方は、ほとんどが70歳以上の方たちです。近い将来に生産者がほとんどいなくなってしまうかもしれません。もう一つの問題は、粗朶の価格です。工事につかわれる資材としての粗朶の価格は単価が決められています。粗朶の買い上げ価格が粗朶生産の労働に見合えば、粗朶の生産、里山の手入れはもっと拡がっていくことでしょう。粗朶の単価を上げる、もしくは、粗朶の生産によって里山の手入れが進んだ場合、生産者に補助をつける、等の経済的な支援策も必要ではないでしょうか。国民の税金を有効に使うことはもちろん必要だと思いますが、「有効」の意味は単に「安くあげる」ということではないはずです。環境によい事業はもっと評価されるべきでしょう。もちろん昔の人は自然環境の保全を目的に暮らしていたわけではありません。しかし、昔の人の「森林を活かす知恵」が、結果的に日本の自然を守ってきたのです。学ぶべき事は多くあると思います。活かす知恵とを森林人2●詳しい内容を知りたい方はTEL(0575)35ー2525森林文化アカデミーまで▲粗朶を作成しているところ▲組み上げている途中の粗朶沈床大量の粗朶が必要とされる※1栗岩平(2012)粗朶を用いた河川工事による河川の水生生物相の保全について.2011年度岐阜県立森林文化アカデミー課題研究※2森田祐理(2012)河川伝統工法としての粗朶沈床工法による環境保全効果と経済効果に関する研究.名古屋工業大学工学部社会開発工学科卒業論文6MORINOTAYORI